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Monday 5 May 2008

エルンスト・ユンガーの日記/ The Diaries of Ernst Jünger by Nils Fabiansson


Junger’s notes
(c) Nils Fabiansson
2008年2月、モレスキンの手帳愛好家によるブログで(現在はモレスキン社が所有する)、エルンスト・ユンガーの手帳についての記事が投稿されていました。
ここにご紹介したいと思います。(著者の了承を得て全文を訳してみました。)
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2008年2月17日日曜日は、作家であり哲学者であり、また日記作家としても名高いエルンスト・ユンガーが102歳で永眠してから10周年の記念でした。ユンガーは自伝的戦争記、『鋼鉄の嵐の中で - 前線におけるあるドイツ突撃隊員の日記』("In Stahlgewittern"、英訳("The Storm of Steel.  From the Diary of a German Stormtroop Officer on the Western Front")の出版により知られるようになりました。ユンガーは第一次世界大戦(1914-1918)を経験し、ほぼ4年に渡る西部前線の塹壕生活で、 16冊のポケットサイズの日記ノートを埋めました。「一山ほどの」と彼の言うとおり、それは1500ページにもなります。*1
日記のほとんどは、「戦争日記」(Kriegstagebuch)と題されています。 最初の7冊のノートはどれも暗緑色のハードカバーで、残りのものは全て異なる体裁と色です。いつくかは罫線入りですが、白紙や正方形のページのものもあり ます。"Fauna coleopterologica douchyensis"(Douchy昆虫誌)というタイトルが付けられている薄い大きなノートは、塹壕で発見された143の甲虫の記録です。ノートに は、一日何件も書き込みをしている期間があります。ある期間-ほとんどは休暇や休戦中ですが-は、全く記入がありません。当日ではなく数日後に書き込まれ ている期間もあります。ノートは判読しがたい古い筆記体*2の ドイツ語で、灰色もしくは青い鉛筆か、黒や緑、または紫のインクで書かれています。削除されたり、取り消し線を引かれたり、また切り取られた箇所は日記に ほとんどありません。約40余りのスケッチがあり、余白に書き込まれたものから、1ページ全てを使って描かれた絵や地図まであります。また、注釈が後から 書き込まれていたり、メモ、切抜きなどがカバーに挟みこまれていたりします。
エルンスト・ユンガーは出版された本の中で、日記のノートや、それらノートと読書中の本を一緒に入れておいた特殊な地図のケースについて何回か触れています。また、日記をつけていた時間についても書いています。
「長期間、戦争に参加したり珍しい状況にある人には、とぎれとぎれにメモを残すよりも、毎日日記をつけるようにアドバイスしたい。それは後日、書いたときの状況を思い出す記憶の鍵となるだろう。( 略-)これらは書き手に経験の本質を理解することを強要し、そして彼を – 一日数分間時間を割くだけで -
見慣れた環境より高いところへ押し上げ、傍観者の位置につかせる。日常の経験が新しい姿で現れるだろう。丁度見慣れた風景が、スケッチしようとした途端に全く違って見えてくるように。
(-略-)生死にかかわる事でない場合、新しい事実を日々まとめる事は考えるよりも労力を必要とするものだ。(-略-)いずれにせよ、観察する努力はノートをとる習慣と調和する。また、人が数年しか経験できず2度と同じような状況が発生しないような特定の状況にいるならば、それらの比類の無い特徴を理解すべく、注意深くならざるを得ないだろう。」
また、戦争中の日記ノートそのものについても、詳細に記しています。
「しばしば書き込みは注意深くインクで書かれている。;そして私はそこから直ちに、私が南フランスやフランダースの小さなコテージでゆったりと座っていたことを、あるいは私の塹壕の前の静かな場所でパイプをくゆらし、最悪でも遠くで鳴っている、夕方最後の偵察をしている偵察機の飛行音にしか邪魔されなかったことを思い出す。
そしてその後には、支離滅裂で歪んだ鉛筆書きの数行がある。それらは攻撃前の、込み合った地獄のような塹壕の蝋燭のかすかな明かりで、あるいは果てしなく何時間も続く大量爆撃の中、走り書きしたものなのだ。
しまいには、動揺した言葉遣いや、判別ができない文字がある。
それらは地震を記録している地震計の波線に似ていて、文字の語尾が急速な書き込みのせいで空中に消えたりしている。-おそらく攻撃のあと、破片が紙の上に 落ちてきたに違いない。殺人蜂の大群のようなマシンガンの弾に襲われたあとの、爆撃でできた穴やところどころ寸断されている塹壕のなかで。」
ユンガーは晩年まで日記を書き続けました。最後に出版された日記は、1997年出版の"Siebzig verweht V"です。ユンガーのノートは、ドイツ公文書館に保存されています。
*1 出版された"In Stahlgewittern" (邦訳:『鋼鉄のあらし』佐藤 雅雄訳 /先進社/1930年)はこれらのノートに基づいている。
*2 現在では使用されていない筆記体で、読める人も少なくなっている。
Sütterlinschrift (Sütterlin script), もしくは Sütterlin(ウィキペディア 英語の説明)

『鋼鉄の嵐の中で』の詳しい情報については、下記ブログで公開されています。
"Das Begleitbuch zu Ernst Jünger ‘In Stahlgewittern’"
[http://stahlgewittern.blogspot­.com/]

著者について:
ニルス・ファービアンソン(Nils Fabiansson)
スウェーデン人の歴史家・考古学者、ストックホルム在住。『鋼鉄の嵐のなかで』の案内書(Begleitbuch zu Ernst Jünger ‘In Stahlgewittern’)を執筆。この案内書は2007年12月にドイツで出版されました。内容はドイツ語で、フルカラーのイラストや写真が掲載されています。
また、これまで未出版だったユンガー直筆の図面も数枚掲載されています。

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原文:
The Diaries of Ernst Jünger
[http://www.moleskinerie.com/2008/02/the-diaries-of.html]

『鋼鉄の嵐の中で』の案内書(ドイツ語):
Begleitbuch zu Ernst Jünger ‘In Stahlgewittern’ [Illustriert] (Broschiert)
von Nils Fabiansson (Autor)