見事なテクニックでベイコンに描かれた、生々しい内臓や人物像、恐ろしい怪物らは、まるで鑑賞者の精神の中でさらなるリアリティを得、悪夢のように執拗に、無意識の領域に働きかけてくることを望んでいるかのようです。
同時代の画家バルテュスは、ベイコンの絵を「率直に言って、好きとはいえません」と語るものの、ベイコンを今日ではごくわずかしかいない、本物の画家のひとりだと評価しています。
ベイコンの62歳
の誕生日にあわせて開催されたパリでの回顧展は、観客の心を強く掴んだものだったようです。ある恐ろしい作品を銀の握りのステッキで指し、「とても
(trés)、とても(trés)、良識的だ」と宣言する巨匠ダリのパフォーマンスも、「数人の観客しか振り向かせなかった」ほどでした。
常に自分を単純な人間と思わせようとしていたベイコンですが、この伝
記はベイコンの父親が性的対象であった少年時代から危険に満ちた青年時代、そして若くハンサムな恋人を持つ成功した晩年までを注意深く描き、ベイコンが実
際には複雑な画家であったことを明らかにしています。
ベイコンは、無意識のうちに眠っている我々の攻撃性、残忍さと性的衝動、禁忌の領域にある暗い破壊的衝動に働きかけようとしました。その為に、しばしばグロテスクな、まるで生きたまま内外を裏返しにされたような人体を描きました。
ベイコンの絵画は、彼自身が言う「人間はみな人格の隠された領域によって生きている」、その領域を暗示ではなく明示しようとしているかのようです。
ベイコンの絵画は、彼自身が言う「人間はみな人格の隠された領域によって生きている」、その領域を暗示ではなく明示しようとしているかのようです。